環境

気候変動問題と向き合い、世界の中で「私ができること」を考える【後編】

2026年01月20日

イギリスのサスティナビリティを専門とするコンサルティング企業「Anthesis Group」に所属し、気候変動リスクコンサルタントとして世界を舞台にご活躍されている齊藤成美さん。世界の最前線で気候変動問題に向き合い、トランジションファイナンス「Climate+Positive Investing Aliance (C+PIA)」の ボードメンバーとしてもアクションを起こし続けています。今回は齋藤さんがサスティナビリティ領域へ関心をもったきっかけから現在の仕事にたどり着くまでの挑戦を辿り、これからの未来に向けた想いをお聞きしました。

齋藤 成美

(さいとう なるみ)

Anthesis Group 気候変動リスクコンサルタント/Climate Positive Investing Alliance (C+PIA) Board Member

日系コンサルティングファームでITシステム導入に携わったのち、気候変動解決・対策の最前線で働くべく2022年に渡英。
2つのClimate Startupを経て、2023年にAnthesis Groupへ参画。気候変動リスクコンサルタントとしてイギリスと欧州企業の気候関連財務情報開示(TCFD)レポートを支援。C+PIAのボードメンバーとして、ロンドンと東京でのネットワーキングイベント運営やコミュニティづくり・Climate Investment Guideline策定にも取組む。


サスティナビリティ先進国・イギリスで気候変動問題に取り組む

サステナビリティ先進国といわれるイギリスへ単身渡英された齊藤さん。現在に至るまでどのような道のりを歩まれてきたのでしょうか。

とにかく「気候変動に関わる仕事がしたい」と決めていたので、現地のオンラインコミュニティで職探しをすることから始めました。すると、運よく3週間くらいでスタートアップに就職することができたんです。その後、同じようにコミュニティの力を頼って2社目のスタートアップに就職し、3社目に「Anthesis Group」へ入社することができました。

齊藤さんだからこそ実現できた道のりですね。海外でも変わらず、人とのコミュニケーションで道を切り拓かれている姿を尊敬しています。

運よく仕事が見つかったのは「気候変動分野だからこそ」かもしれません。この業界では、気候変動に関わる人や仕事が増えることはソリューションに繋がる……つまり、多くの人を巻き込み育てていくことが、気候変動問題解決にとって必要だと考えられています。だからこそウェルカムな人が多く、繋がりやすい環境なのだと思います。

現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

今は気候変動リスクコンサルタントとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)フレームワークに沿った大企業の財務リスク開示レポート支援と、ステークホルダーへの「気候変動とは何か?なぜ企業としてアクションを起こす必要があるのか?」といったトレーニングを行っています。イギリスでは気候変動問題へ危機感を持っている人や興味のある人が多く、企業は年次報告書へ気候関連財務情報を開示することが強く求められているからです。日本と比べると、やはり国全体として環境問題への意識が高いように思います。共に働くメンバーも「アサインされたから働く」のではなく、「気候変動問題を解決したい」という強い意志のある人たちが集まって働いています。

生活や仕事の中へ、当たり前に「環境問題」がある社会なのですね。やはり、日本との違いを感じる瞬間は多いのでしょうか。海外で働く中で、気づいたことがあれば教えてください。

海外に長期的に住むようになってから、改めて日本の社会を眺めてみると、日本では他の文化や価値観を持つ人との関わりが薄いように感じます。日本で生まれ育つと、日本の社会の中で物事を考えたり、日本人に対して自分を比べたりしますよね。でも、もっと人種や文化が違う人が当たり前にいる社会だったら、「世界の中にいる私」という目線で物事を考えたり、「世界と自分」を比べたりするのではないでしょうか。違いを受け入れ、人や動植物と共生するためには、この世界の視点が必要だと感じます。

世界に目を向けて気付いた「今、私たちができること」

私たちとの出会いは、齊藤さんとLively代表の種田が同じ会社にご縁があったことからでした。会社設立の際に応援いただいたり、お仕事をご一緒したり……改めて、出会えたことに感謝しています。

こちらこそ、皆さんと出会えてよかったです。種田さんを始め、Livelyの皆さんとはモチベーションが同じだと感じています。環境問題に対し「何か、自分にできることがあるんじゃないか?」という視点で行動する、パッションとタレントのある方々が揃っていますよね。人のつながりを重視して人材採用されているところもLivelyの強みだと感じます。

「モチベーションが同じ」と言っていただけてうれしいです。今後、齊藤さんが目指すものや目標がありましたら教えてください。

夢だった気候変動問題に関わる仕事をすることができた今、よりインパクトを求めるには何をすべきなのかを改めて考えています。気候変動問題を解決するためには、社会や業界を根本から変える必要があります。資本主義社会ですから、倫理だけでは人は動きません。より大きな変化、確実なインパクトを起こすためにも、金融業界と気候変動をつなげるプロジェクト、コミュニティづくりを模索しているところです。

「C+PIA」のボードメンバーに就任されたことも、その目標に向けた一歩なのでしょうか。

ええ、今は気候変動分野のコミュニティ作りや投資を活性化させることが重要なのではないかと思い、金融(CFA)の資格を取ったり、日々勉強をしながら新たな方向性を探っています。今年は東京で「Asia Climate Investing Summit (ACIS) 2025」も開催することができたので、今後はこういった活動も積極的にやっていきたいですね。

とはいえ、アプローチは変わっても、目指す目標や達成したいことは変わりません。「気候変動に対して自分がソリューションになること」に向かって、その都度やるべきことに取り組んでいきたいと考えています。

2025年10月23日に開催されたAsia Climate Investing Summit登壇の様子

自分自身も変化させながら、目的に向かって突き進む齊藤さん。その情熱の源はなんでしょうか。

気候変動問題に興味をもつきっかけの一つに「How rich am I」というサイトがあります。このサイトでは、自分の年収が世界のトップの何パーセントに入るかを知ることができるんですよ。例えば、日本で年収500万円の人は、世界の上位2.5%に入るそうです。「世界のトップ2.5%の資源と機会を持っている」ということには、どういう意味や責任があるのか……読者の皆さんにも、考えてみてほしいと思います。

年収500万円で世界の上位2.5%とは、意外と高い数値ですよね。齊藤さんはその結果を見て、どう思われたのでしょうか。

言葉を選ばないでいえば、ムカつきました(笑)環境問題によって大きな影響を受けるのは、温室効果ガスを排出していない発展途上国、そして一番苦しむのは子ども・女性、自然の中で生きる動物たちです。COP27でも論点になった「発展途上国の気候変動による経済損失を支払うべきなのは誰なのか?」という問題。先進国の発展に地球資源ー化石燃料がなくてはならない存在だったのは明白だと思います。だからこそ、日本を含めた先進国はもちろん、何も知らず・何も考えてこなかった私自身に怒りが湧きましたね。先にもお話しましたが、日本の中のことばかり見ていたからこそ、自分が世界へどういう影響を与えているのか気が付かなかったんです。

開発してきた先進国、そして、その一員である自分自身への怒りや反省の気持ちが、活動の源になっているんですね。

バックパックで世界を巡っていた学生時代、また卒業後に訪れた、ウガンダで見た景色が「他人事じゃない」という感情が生まれたことも、私の原動力になっています。「日本に生まれる」ということは、世界的にみて毎日大吉を引くくらい大当たりですよ。裕福な社会に生まれて、機会に恵まれていると分かったからこそ、気候変動問題を心の底から解決したいと思っています。

インタビューを通じて、改めて齊藤さんの行動力や思いの強さを感じました。今のキャリアに至るまでには「運」も大きな影響を与えていたとお話がありましたが、どうしたら齊藤さんのようになれるでしょうか。

そうですね……私は「気になったら一歩踏み出して見ること」が大事なのかなと思います。あとは「言いふらすこと」ですね。やりたいことや気になったことを周りに言いふらすと、色んな人からフィードバックをもらってアクションを起こすことができます。人との縁をつくるためにも、まずは自分が行動して、夢やビジョンを語ることが大事だと思います。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

撮影場所:WeWork赤坂グリーンクロス 会議室

今回はインタビューしていただき、ありがとうございました。ここまで読んでくださった読者の皆さんに感謝しています。メッセージとしては、やはり「How rich am I?」でしょうか。90億人の世界人口の中で、自分が上位2%の資源を持っているとしたら、皆さんはその資源をどう使いますか?気候変動の話でなくてもいいんです。人権問題や動物愛護など、皆さんの興味のある分野で行動してみませんか、ということをお伝えできれば嬉しいです。

社会人になって自分でお金を稼ぐまでは「自分を満たすこと」が最優先でした。生活や人生の土台が安定したからこそ、世界のことを考えられているのだと思います。きっと、誰しもそうなんです。だから、今、大変な環境にいる方へ、無理に「気候変動のことを考えて」とは言いたくありません。人それぞれ、人生の余裕が生まれたタイミングで気付いていただけることを願っています。

齊藤さん、ありがとうございました!

Livelyからのコメント

気候変動という大きなテーマに対して、「自分には何ができるのか」。本インタビューでは、その問いを起点に行動を重ねてきた齊藤さんの歩みをお話いただきました問題意識を行動に変えていく姿は、読む人にとって具体的なヒントを与えてくれるものだと感じます。

とくに印象的だったのは、自身が世界の中でどの位置にいるのかを広く捉え、個人の問題意識を実践へつなげていくプロセスです。気候変動という複雑な課題に対して、正解が一つではないことを受け止めながら関わり続ける姿勢が伝わってきました。

これまで齊藤さんには、Livelyのコンサルティングにおいても、欧州での経験を踏まえた知見を共有いただいてきました。今後も、齊藤さんの実践にならい、海外で更新され続ける議論や考え方を踏まえながら、企業や個人への情報発信や対話を続けていきます。本インタビューが、気候変動というテーマを「自分自身の問い」として捉え直すきっかけになれば幸いです。

インタビュー実施日:2025年10月30日

西 涼子/ライター

種田 毅・阿部 莉子/Lively担当

Receive all the latest news, events and insights from Lively