人権
2025年05月02日
2023年よりLivelyのアドバイザーとして伴走する国際弁護士・小林美奈さんは、「ビジネスと人権」分野での活動に注力されています。インタビュー前編では小林さんご自身の原点から現在に至るまでのストーリーについて伺いました。続いて後編では、小林さんの国際弁護士としての歩み、Livelyとの関わりについてお話いただきます。
小林 美奈
(こばやし みな)
弁護士(弁護士法人ANSWERZ)、ニューヨーク州弁護士
学生時代は国際人権と開発について学び、現在は弁護士として、ビジネスと人権、サステナビリティ法務、DE&I推進などに従事。「将来世代によりよい地球と社会を手渡したい」という想いを一緒に実現したいと思い、2023年にLivelyにジョイン。日常生活ではコンポスト生活3年目。環境問題・社会課題は、小さな日々の実践と地球規模の取組みの両面が重要で、そんなアプローチを取っていきたいと考えている。
日本弁護士連合会の国際人権問題委員会の幹事として「ビジネスと人権」に関するサマースクールの講師を実施したり、企業法務の中で、企業内研修講師などを務めました。今後も「ビジネスと人権」分野に関する発信・啓発・教育などを続けることで、日本および世界の人権課題の解決を目指していきたいです。
また、現在は国内人権機関(NHRI)の設立に向けた活動に力を入れています。日本は国連から複数回の勧告を受けているにも関わらず、政府から独立した人権機関がありません。様々なステークホルダーを巻き込んだ勉強会やイベントを企画し、設立への気運を高められればと考えています。一朝一夕にできることではありませんが、頑張っていきたい取り組みです。
そうですね。リサイクルやアニマルウェルフェア、多様性に関わる事業のお話を聞いて「面白そうな会社だな」と興味を持ちました。私自身の人権やコンポストの話も真剣に聞いてくださり、そういったことを普通に話せる人たちと出会えたことに感動しました。
こちらこそ、一緒に仕事ができたことを感謝しています。最初に取り組んだプロジェクトは、企業の人権DD(デューディリジェンス)をサポートする内容でしたね。クライアントも巻き込んで協働し、開催したワークショップでは参加者が前のめりに参加してくれてうれしい気持ちになりました。Livelyの「体験することで自走できるように」というプロジェクト方針も素晴らしく、クライアントに寄り添う皆さんの働き方は理想的でした。これまで弁護士という立場ではできなかったことも体験することができ、非常にいい経験になりました。
皆さん穏やかな方が多く、“早朝の森林”のような透明感のある澄んだイメージがあります。ただ、根底には熱い理念があるというか……私もそうですが、将来世代に対する使命感がありますよね。「このままの地球、このままの社会は次の世代に手渡せない。だから、変えていきたい。」そうした想いが、私と皆さんに共通している想いであり、共感した部分だと思います。
「ビジネスと人権」やジェンダー、主権者教育などの分野で、体感を重視した活動をしていきたいと考えています。一方的な講義や研修は多くの方に知識を広めることはできますが、やらされ感があったり忘れたりしてしまう。ですので、少ない人数でも体感する・腑に落ちる経験をしてもらうことも重要だと思うんです。社会課題へ目を向けてもらうための一歩として、これまでピントが合っていなかった景色を見るための“レンズをかける”活動が必要だと感じています。
私自身がジェンダー問題に深く関わるようになったのも、留学で“ジェンダー”レンズをかける”経験をしたからです。「アフガニスタンでは、女性は男性家族の付き添いがないと病院に行けない」という話を聞いて、私はすごく不合理だと感じましたが、アフガニスタン人のクラスメイト(男性)は「付き添いがあれば病院に行けるのだから、問題ない」と言っていました。インドネシア人のクラスメイト(女性)は「今は女性器切除(FGM)といっても、痛みもなくほんの少し印をつける程度のものだから、文化として尊重されるべきだ」と言っていました。私はとてももやもやしました。個人の人権が、文化的多様性というものに覆い隠されるようにも感じたからです。
こうしてジェンダーレンズを装着した後は、自然とジェンダー問題に目が向くようになり、日本に帰国してからも身近なジェンダー問題に気付くようになりました。ジェンダー視点を持って社会構造へ目を向けると、地方で育つ人と都会で育つ人でぶつかる壁に差があること、性的暴力・ハラスメントの問題、マミートラック、管理職や議員の女性比率など、色々なことが見えてきます。どれも「気付いてしまうと、動かずにはいられない問題」ばかりです。
こうした実体験があるからこそ、一人でも多くの方に知識ではなく「体験として、心で受け止める経験」をしてほしいと思っています。
やっぱり「世界平和」ですね。誰もが自分の本来もっている個性や能力を、生まれた場所や育った環境に関わらず発揮できる世界を実現できたらと思います。これまでの体験型の活動を地道に続けることはもちろん、一人ではできないことばかりなので、Livelyの皆さんのような想いが重なる仲間たちを増やしていきたいです。得意分野や興味、情熱は人それぞれだと思いますので、根底の想いは繋がったまま、役割分担をしながら、緩やかな連帯が広がっていけばと思います。皆さんと一緒に、将来の地球や将来の世代にとっていいことを続けていきたいです。
小林さんの、高校時代の原体験から国際的な視野を広げ育んだ社会課題に向けるまなざしは、「複雑な社会課題に対して継続的な取り組みを行い持続可能な社会を未来へつなげたい」というLivelyの想いと重なり、深く共感するものです。
人権問題は、すべての人が生まれながらに持つ基本的な権利が侵害される社会課題です。近年、「ビジネスと人権」の観点から企業の責任が問われるようになり、人権デューデリジェンスの実施が求められています。小林さんとこれまで共同で進めてきた人権に関するプロジェクトでは、クライアント企業の方々に対して普段はみえない社会課題に気づくための「レンズ」をかける機会を送り届けることを目指してきました。
実際に、クライアント企業とのワークショップでは、小林さんの問いかけやコメントを通じて、参加者がこれまで見過ごしていた潜在的な課題に気づき、人権を“守るべきリスク”としてではなく、“前向きな変化を生み出す力”として捉え直す動きが生まれました。企業の中にある既存の制度や文化を問い直し、行動につなげるこのようなプロセスは、小林さんがもたらす視点と働きかけによって実現したものです。
国内外のプロジェクトに多く関わるご多忙のなかでも、一つひとつの対話に丁寧に向き合う小林さんの姿勢は、クライアント企業にとって大きな安心感と信頼につながっています。対話を重ねながら寄り添い続けるその伴走型の支援は、現場で確かな変化を生み出す原動力となっています。
Livelyは、これからも小林さんと共に、対話を通じて「気づき」を促す機会を企業や社会に提供する取組みを継続しながら、持続可能な未来への一歩をつくっていきます。
インタビュー実施日:2024年11月29日
西 涼子/ライター
田邊 築/Lively担当