農業
2025年01月26日
房総半島の南部に位置する千葉県館山市の「須藤牧場」では、牛と人、そして環境に優しい牧場づくりが進められています。今回は代表取締役の須藤健太さんにインタビューをさせていただき、牧場の取り組みや今後の展望をお聞きしました。
須藤健太
(すどう けんた)
須藤牧場 代表取締役
1993年1月7日生まれ。2013年須藤牧場入社。
2025年度 中小企業診断士資格取得。
千葉県館山市に位置する「須藤牧場」の代表取締役。入社より乳牛の飼育、乳製品の加工製造、直営店運営、経理など業務全般へ従事。2019年からは、牧場で生産した専用アイスを使って開発したプレミアムシェイクを提供する「生シェイク祭り」を毎年主催。現在は牧場の経営者として、意思決定や組織作り、全体の最適化に携わりながら、先代から続く循環型酪農を実践している。
約100年ほど前、大正時代に私の曽祖父・須藤源七が牛を飼い始めたところから牧場が始まりました。現在は乳牛を100頭ほど育てており、生乳を1日約1,500L生産しています。牧場の他に生乳を製造・加工できる自社工場があり、「生シェイク」などを提供する直営店も3店舗あります。
実家が牧場なので、生まれた時からでしょうか。牛も牧場も常に身近な存在で、小学二年生の頃に通信簿へ書いた将来の夢は「酪農家」でした。
昔から須藤牧場は酪農体験を受け入れていて、私が子どもの頃は多くの子どもたちが牧場見学に来ていました。知らない子どもたちが牛と楽しそうに過ごしていて……子ども心にその光景がうれしかったのを覚えています。
その後、ふとした時に父へ「牧場を誰も継がなかったらどうなるの?」と質問しました。父は「無くなるよ」と答え、瞬間的に「それは嫌だ!」と思いました。
私にとって須藤牧場は「牛を育ててミルクをいただく場所」だけではなく、「人と牛が幸せに暮らし、訪れる人が笑顔になる場所」なんです。そんな場所を絶やしちゃいけないなと思い、自然と牧場を継ぐことを決意しました。
教師、弁護士、俳優、ナレーター……色々とやってみたい仕事はありましたが、酪農家を辞めようと思ったことはないですね。牧場は楽しいですし、他にやりたいことがあっても酪農と両立できますから。
母のおかげですね。私の母は元々教師のような仕事をしていたので、自作の絵本を作って読み聞かせをしたり、牧場で子どもたち向けの食育体験を開催したりしていました。そうした母の姿を見ていると、自然と「酪農をしながら、何でもできるんだ」と思えましたね。
実際、私は就農した年に牧場で野外劇をしましたし、今も副業で大道芸人をやっています。
100年以上前、私の父が自給飼料の作付を始めました。当時は自給飼料を増やそうという法律の制定やコストが抑えられるという利点があって始まった取り組みですが、現在も環境と牛たちのために自給飼料づくりを続けています。また、飼料にはアマニ油脂肪酸カルシウム(牛の胃の中からのメタンの発生を抑制する効果がある飼料添加物)を加え、牛のゲップに含まれているメタンガスを低減する可能性を探っています。
さらに、須藤牧場の商品は自社で加工・流通・販売を行っています。商品開発の際に廃棄物が無くなるように工夫するなど、小さな取り組みを積み重ねています。
私も父はすごいと思います。父は「相互理解」を理念としていて、須藤牧場を理解していただくための発信と、地域の方や消費者の心を理解するための取り組みに注力していました。お客様の声から酪農体験やソフトクリームなどのサービス・プロダクトが生まれたように、私も父の想いを引き継いで、消費者交流を大切にした牧場経営をしていきたいです。
「環境やサステナビリティについて考えることが当たり前」という両親の元で育ったため、牧場経営を始めた当初から自然と意識していました。ファミリーカンパニーだということも、理由の一つかもしれません。100年間家族が繋いできた会社を経営していると、必然的に100年後のことを考えます。他のファミリーカンパニーの経営者方も同様に、未来を見据えた目線を持っている方が多いように感じます。
インタビュー後編では、新たなサステナビリティへの取り組みや現在の酪農の課題、目指す未来についてお話いただきます。次の更新を楽しみにお待ちください。
西涼子 / ライター&カメラ
田邊築 / Lively担当